Interview
手書きそのものが、メッセージ。曽我部恵一が想う、上手いも下手もない書道
曽我部恵一
サニーデイ・サービス、シンガーソングライター、自主レーベル「ROSE RECORDS」の主宰、エッセイスト、俳優、そして三児の父。ジャンルや肩書きを軽やかに越えながら、今なお新しい表現を生み出し続けている曽我部恵一。
現状維持にとどまることなく、自分の「今」を更新し続ける彼が、この日筆で書いた一文字は「今」だった。無心になる時間、子育てを通して見つめた現在、そして手書きの文字に宿る、その人だけの世界。「今」を信じ、「みんな違っていていい」と語る曽我部恵一に、書道の価値について伺った。
取材・執筆 :飯嶋藍子、撮影:タケシタトモヒロ、編集:丸田武史曽我部恵一:めちゃくちゃ楽しかったです。楽しいというか、気持ちがスッとしますね。クリアになる感じ。
曽我部恵一:絵を描くことかな。絵も書道も、どちらも無心になってやる感じがありますね。書道をしている最中も、実際何も考えていなかったです。なんかこう、ただ見ている感じ。自分で書いているんだけど、手が進むがままに黒い線が生まれるのをただただ見ているというか。

曽我部恵一:書道をしている時は、精神と身体の運動がわりと合致している感じがしました。たとえば、立つ時って「立とう」と思って立つし、何をするにしても精神が先にあって身体が動く。でも書道は違っていて、その二つが自然と重なっている感覚だった。それが心地よかったです。
曽我部恵一:何も考えていない時間だからだと思う。集中して、本当に目の前の筆と黒い線が進んでいるほうを見ているだけ。その集中がすごく気持ちいい。その集中って、自分の生活にとって何か意味があるわけではないんですよ。むしろまったく意味がない。でも、意味のないものに集中するからこそ、無になれるんだと思うんですよね。たとえばぼーっと空を見るとか、海を見るとか、そういう時間ってすごく大事だと思う。でも、それが何にもなっていないかというと、そうではなくて、心と身体にとっては実は一番いい時間じゃないかって思うんですよね。

曽我部恵一:そうなんです。母親が「字は綺麗なほうがいい」っていうことで、小学生の頃に親戚のおじさんがやっていた教室に通っていました。生徒をいっぱいとっているわけでもなくて......あのおじさん、今思えば何をしていたんだろう(笑)。その人の家の大きな部屋で、ポツンと書道を教えてもらっていました。
曽我部恵一:僕は、字を綺麗に書くために習いに行ってたはずなんだけど、そのおじさんが書いてる作品を見たら全然字が読めなくて。その時は、「めちゃめちゃ下手な字を書いてるけど、なんなんだろう?」って思ってました(笑)。でも、それをでっかく書いて飾っているわけですよ。丁寧に字を書くことを教わっているその先には、こんな世界もあるんだ、と幼心に思ったんです。子どもの頃は分からなかったけれど、今思えば、あれが初めてアートみたいなものに触れた瞬間だったのかもしれない。教科書通りのものも、読めないようなものも、どちらも"あり"なんだということを、その時に何となく知った気がします。

曽我部恵一:僕が今、一番大事にしているものが「今」なんです。自分がどこからやってきて、これからどこに行くのかということは置いておいて、今この瞬間、自分がここにいること、やっていることに集中したい。だからライブでも、音楽を作るときでも、同じ気持ちでやっています。今に集中することを積み重ねていくのが、人生なのかなって。
曽我部恵一:何かきっかけがあったというよりは、どちらかというと自分の性質のように思います。「今楽しければいいや」と思ってずっと生きてきて、なぜそう思うのか、なぜ今を優先してしまうのか、なんでこういうふうに生きているんだろうということを徐々に考え始めたって感じですね。
曽我部恵一:いろいろ考えてみたら、結局今しかないから、それが正しいんだと思うようになったというか。2年後や10年後のことを考えても、まだその時は来ていないわけで、死ぬことだって、結局は「その時」が来るまでは分からない。だから、そんなに心配しながら生きる必要もない。僕にとっては、表現も同じなんです。今感じたものを、今ここでぶつけるということが一番大事で、そうしないと何も始まらない。だから僕は、自分に対しても「これでいいんだ」と言い聞かせるような気持ちで、「今」を信じています。
曽我部恵一:子育てをしていると、僕もやっぱり子どもの将来とか考えちゃうんですよ。でも、将来のことを考えて、今はちょっと厳しい期間を過ごさせようとか、それって本当に子どものためなのかなって。こいつの人生、今日楽しかったらもうOKなんじゃないかって思うというか。
曽我部恵一:今日笑って、みんなで「イエーイ!」ってなっているっていうことだけが真実で、20年先のボーナスを心配することって、一体子どもの何を考えているんだろう? って思うんです。今日「イエーイ!」ってはしゃぐこと、楽しいこと、悲しいこと、お腹がすいたこと。そういう一つひとつが、子どもにとって大事な何かにつながっていくんじゃないかって。もちろん、それも僕が自分に都合よく考えているだけなのかもしれないですけどね。

曽我部恵一:子どもができた時は何も分からなかったから、育児書を読んでいました。寝かせる時間、ごはんの時間、幼稚園は何歳から、家事育児の分担はこうして……高校に行くためには何年前から塾に行きましょう、みたいなことまで書いてある。僕も分からないから、最初はその通りにやろうとしていたんです。でも、そのうち「本当にこれでいいの?」と思うようになって。みんな同じものを目指しているだけなんじゃないかって。それなのに、子どもの自殺率が増えているという話も聞くし、「ひょっとして教科書のほうが間違っているんじゃないか?」と考えるようになって。
曽我部恵一:みんな子育てをしながら、本当にこれで正しいのか、本当に幸せなのかって、凄い悩むと思うんですよ。そんな時に、子どもが笑っていたり、はしゃいでいたり、悲しくて泣いていたりする、その瞬間の方がやっぱりリアル。それが一番大切なんじゃないかなと思うようになって、だったらそこを大事にしたらいいんだと思うようになりましたね。
曽我部恵一:僕の好きなミュージシャンでニール・ヤングという人がいるんだけど、彼のアルバムにノートに手書きしている歌詞カードが入っていて。一枚一枚、筆圧も違えばペンも違うし、書いているノートも違う歌詞が、ポスターのように並べてあるんです。すっごい下手な字なんだけど、何かこう、伝わってくるんですよ。

曽我部恵一:あと、遠藤賢司さんのレコードにも手書きの歌詞が入っていたし、はっぴいえんどのアルバムには松本隆さんが書いたわりと丁寧な文字の歌詞が入っていた。あと、昔の洋画って手書きの字幕がついてたんですよ。そういうのもすごく良かった。活字にはない、その人の持つ何かが伝わってくる。僕もひとつのメッセージとして手書きで書いています。
曽我部恵一:そう。歌詞カードは間違ったらぐちゃぐちゃって消して、本来誰に見せるでもなかったものをあえて載せるんです。それも含めて、自分の世界だから。何が正解で、何が間違いかなんて、その人自身の世界の中では決められないものだと思うんです。だから僕は、それもひとつのメッセージとして伝えたい。

曽我部恵一:下手でもいいし、上手くてもいい。正解も不正解もない。みんな違う世界を持っていて、それが尊重されるとしたら、それこそが平和なんだと思う。その人の世界って、誰にも触れられないものだし、それを尊重して一緒に生きるということこそが大事というか。だから、大人がちゃんと「みんな違っていていいんだよ」と伝えていかなきゃいけないと思うんです。手書きの文字だって、一つとして同じものはないんだから。
曽我部恵一:僕、漢字ってすごくいいなと思うんですよ。象形文字みたいだから、文字そのものに動きがあるし、感情も見えてくる。アルファベットとはまた全然違う魅力がある。別に笑っているように書こうと思っているわけじゃないけど、あとから書いた文字見ると「笑ってるな」「走ってるな」「怒ってるな」っていうのが見えてくる。それが漢字のおもしろさなんじゃないかなって。

曽我部恵一:まず丁寧に字を書くっていうのは大事だと思う。僕、子どもに書道を習わせるのは絶対いいと思う。決められた画角の白にどう黒を置くか、それで余白をどう抑えるか、どういうバランスのものをどう配置したら気持ちいいかという勝負だから、デザイン感覚が育つと思いますね。
曽我部恵一:そうそう。そして、真っ白な紙に黒で自分の言葉を書いてみると、言葉を少し離れたところから見ることができると思うんです。僕たちって、言葉にしがみついて「あの時こう言って失敗だったな」とか、「これ言うの忘れたな」とか思うことがたくさんある。でも、書いてみると言葉がすっと自分から離れて、半紙の上に乗ってくれる。僕も「今」という字を書いてみたからこそ、「”今”って何なんだろう?」とか、「”今”ってこういうふうにも見えるんだ」と考えることができた。少し自分から言葉が離れて、自由になれるような感覚があったというか。
曽我部恵一:あとは単純に、字ってきれいだなとか、漢字っておもしろいな、と思える。それだけでも十分価値があると思うんです。何の訓練もいらないし、お金もかからない。ただ筆を持って書くだけで、そういう体験ができる。日本の人なのか、中国の人なのか分からないけど、そんなものを昔の人たちが作ってくれたんだと思うと、本当にすごい文化だなって思いますね。

プロフィール
曽我部恵一
1971年生まれ、香川県出身。1990年代を代表するバンド・サニーデイ・サービスのボーカル・ギターとしてデビュー。繊細な言葉とメロディで、日本の音楽シーンに大きな影響を与えてきた。バンド活動と並行してソロ名義でも精力的に作品を発表し、自主レーベル「ROSE RECORDS」を主宰。音楽活動に加え、エッセイなどの執筆や俳優、映画音楽・CM音楽の制作、プロデュースなど、ジャンルにとらわれない表現活動を続けている。

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1971年生まれ、香川県出身。1990年代を代表するバンド・サニーデイ・サービスのボーカル・ギターとしてデビュー。繊細な言葉とメロディで、日本の音楽シーンに大きな影響を与えてきた。バンド活動と並行してソロ名義でも精力的に作品を発表し、自主レーベル「ROSE RECORDS」を主宰。音楽活動に加え、エッセイなどの執筆や俳優、映画音楽・CM音楽の制作、プロデュースなど、ジャンルにとらわれない表現活動を続けている。

06
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About
得られる教養と出会いは
一生ものの財産に。
日本習字は、日本の伝統文化である書道を
年齢・習熟度に応じた教材による学習機会の提供と、
全国約1万1千の習字教室への運営支援を通じて、
書を身近に感じながら学べる環境を提供しています。
全国に広がる学びのコミュニティは忙しい日常を整え、
自分自身と向き合える場でもあります。
初めての方も、再び筆をとりたい方も。
あなたのペースで始められる、豊かな学びがここから始まります。
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