Interview

自分の中の正解を追い続けること。アオイヤマダが書道に映した、今の自分の現在地 

アオイヤマダ

ダンサー、俳優として活動し、振付や楽曲制作も手がけるアオイヤマダ。東京2020オリンピック閉会式でのソロパフォーマンスや、2025年大阪・関西万博閉会式への「アオイツキ」としての出演など、日本を象徴する大舞台でも、その身体表現を刻んできた。

そんな彼女が今回選んだ言葉は、「茄子」。古くから「一富士二鷹三茄子」と言われ、縁起物として親しまれてきた茄子を通して見えてきたのは、時間をかけて何かを成すこと、自分の中の正解を信じること、そして変わり続ける自分を受け入れること。書道という鏡に映った、今のアオイヤマダの現在地に迫る。

取材・執筆:飯嶋藍子、撮影:小林大輔、編集:丸田武史

やり直しが効かない筆と、過去に執着しない踊り

──アオイさんは、書道をするのはいつぶりですか?

アオイヤマダ:数年前、マレーシア伊勢丹の周年ポスターの撮影で、大きな紙の上で踊りながら、大きな筆で「1」と書くパフォーマンスをしたことがあって。ただ、その時はあまり書道をしているという感覚ではなかったので、こうして腰を据えて書くのは小学校の授業以来です。

──小学校の頃の書道とは、どんな違いがありましたか?

アオイヤマダ:当時は、お手本にどれだけ近づけられるかが基準でした。でも今日はお手本がなくて、自分の中の正解に向かって書き続けなければいけなかったので、難しかったですね。

――実際に筆を動かしてみて、特に印象に残ったことはありますか?

アオイヤマダ:今の時代って、文字を打ち込んでは消す、ということを何度でもできますよね。でも書道は、自分をそのまま出すことしかできない。やり直しが効かないし、一度書いたものは消せない。まずそのことが、すごく魅力的だと思いました。

──そういった意味では、踊りも、その場で生まれたものをやり直すことのできない表現ですよね。

アオイヤマダ:そうですね。この前、ある人が私の踊りを見て、「過去に執着しない踊りだよね」と言ってくれたんです。それってすごくいいなと思いましたし、書道にも通じるものがある気がして。踊りも書道も、一度生まれた動きや線を巻き戻すことなく、前へ進んでいく表現なんですよね。

──アオイさん自身、過去の自分と比べてしまうこともあったのでしょうか?

アオイヤマダ:以前はありましたね。やっぱり10代の頃のほうが圧倒的に身体が動いていましたし、体力の面では昔のほうがよかったと思うこともあります。でも、過去の自分と比べ続けるのではなく、今の自分の体を受け入れて、無常のものとして放出していく。そのことが、すごく大切なんじゃないかと思って。今は、変わっていく自分の体も受け入れられていますね。

小さな茄子が教えてくれた、「成す」ということ

──今回、書く文字に「茄子」を選んだのはなぜですか?

アオイヤマダ:最近、初めて自分で苗から野菜を育てて、ナスが実ったんです。この前、それを食べた時にすごく感動して。「自分が今までやってきたことって、こういうことだったんだ」と、何かがつながる感じがしたんですよね。

──つながる感じ、というのは?

アオイヤマダ:これまでは、何かを成し遂げたいとか、何者かになりたいという願望に向かって、ずっと種を蒔いてきたような感覚があったんです。それがここ数年、少しずつ小さな実になってきたというか。

──「一富士二鷹三茄子」とも言われますし、茄子は縁起のよいものとしても知られていますよね。

アオイヤマダ:そうなんです。調べてみたら、「茄子」は物事を成し遂げるという意味の「成す」にも重なると知って、それもすごく素敵だなと思って。それで今回、この文字を書こうと思いました。

――茄子は以前にも、表現のモチーフとして取り入れたことがあるそうですね。

アオイヤマダ:以前、ベルリンでパフォーマンスをした時に、お盆のキュウリの馬とナスの牛をモチーフにして、最後は自分がナスの牛になって帰るという演出をしたこともあります。ベルリンの方々は何を見せられているのかわからなかったと思うんですけど、「おもしろかった」と言ってくれて。会場にいた日本人の方の中には、「日本を思い出して泣けた」と言ってくださった方もいたんです。

――そんな茄子が、今回はご自身の現在地とも重なったんですね。

アオイヤマダ:そうですね。答えがすぐに出る時代だからこそ、長い時間をかけて実っていく茄子の姿が、今の自分に近いと思ったんですよね。もっと実を大きくしたいとか、いろいろな願望も出てくるんですけど、小さな茄子でも、実った時の喜びはすごく大きくて。この喜びのために、これからもコツコツと種を蒔いて、水やりを続けていこうと思いました。

正解はあくまで、自分の中にある

――書道をしている途中、「成す」や、ひらがなの「なす」など、少し違う文字も書いていましたね。

アオイヤマダ:ずっと同じ字を書いていると、だんだん固まってきちゃうというか。2枚目まではよかったんですけど、3枚目くらいから、どうしても自分らしくない方向へ向かっている気がしたんです。それを一度崩したくて、「成す」や「なす」を書いて、少し寄り道してみました。

――次第に、「うまく書こう」という気持ちが出てきたのでしょうか?

アオイヤマダ:そうですね。「自由に書いてください」と言われているのに、この半紙に一番似合う、かっこいい文字は何だろうと、正解を求め始めてしまって。「習字の企画だから、早くいい字を書かなきゃ」という気持ちも出てきて、だんだん迷ってしまったんです。

――そこから、どうやって自分らしい字に戻っていったのでしょうか?

アオイヤマダ:一度その気持ちを崩そうと思って、別の文字を書いてみたんです。そうやって少し寄り道をして、最後は「もう、書きたいように書こう」と思えたことで、自分らしい字に戻ってこられた感じがしました。短い時間の中でも、迷ったり、正解を探したり、また自分に戻ってきたりする。その気持ちの揺らぎが、書いた文字にそのまま表れるのがおもしろかったですね。

――書道でそうした気持ちが出てくるということは、踊りでも同じような瞬間がありますか?

アオイヤマダ:以前はありましたね。いわゆる一般的な正解のほうへ行こうとしたり、周りが求めているものをやらなければいけないと感じたりして、評価の基準が自分の外側に向いてしまうことがあって。そうなると、自分の中のいろいろなバランスが崩れてしまうんです。正解はあくまで自分の中にあるはずなのに。

――その正解は、書き続けるうちに見えてくるものなのでしょうか?

アオイヤマダ:そうだと思います。小学校の書道の授業でも、たくさん書いた中から、自分が気に入った2枚を選んで提出していました。自分で「これがいい」と思えるものが書けると、今度はそれを超えたくなるんですよね。そうやって書き続けるうちに、自分が向かいたい方向や目標が、少しずつ見えてくる。その目標を超えようともがく感覚は、書道も踊りも似ているのかもしれませんね。

書道がつくる、自分を見つめる時間

――アオイさんは、日々の中で、気持ちを整えたり、自分を見つめたりする時間はありますか?

アオイヤマダ:料理をしている時間は、内省の時間になっていると思います。以前、アオイツキの高村月と「内省と反省は違うよね」という話をしたことがあって。日常の中で反省はたくさんするけれど、意外と内省することは少ないんだなと、その時に気づいたんです。

――反省するのではなく、今の自分を静かに見つめるということ。

アオイヤマダ:そうですね。今日、書道をしている時間にも、それに近い感覚がありました。書道もそうですし、きっと茶道などもそうだと思うんですけど、何かを体験することを通して、自分を見つめられるものって、まだたくさんあるんでしょうね。これを機に、いろいろやってみたいなって。

――茶道の話も出ましたが、書道や茶道といった日本の文化に、アオイさんはどのような魅力を感じますか?

アオイヤマダ:以前、茶道について書かれた本を読んだ時に、掛け軸や花、懐石料理まで、一連の流れや空間全体を楽しむという話があったんです。それを知って、「茶道って総合芸術なんだ」と感動して。それまでは、日本の文化には少し敷居が高いイメージがあったのかもしれないけど、今日の体験を通じて、自分の好みで楽しんでいいんだと思えましたね。

――今日の書道も、内省の時間になりましたか?

アオイヤマダ:実は今朝、身近な家族のことで心配な知らせがあって、気持ちがすごく落ち着かない状態だったんです。「どうしよう、今すぐ行かなくちゃ」と焦っていましたし、今日このあと自分は大丈夫かなとも思っていて。
でも、実際に筆を動かしているうちに、少しずつ落ち着くことができて。悲しいことや、変わっていくものも、少し受け入れられるような時間だったというか。書道にすごく救われた気がします。

――書くことに集中する時間が、気持ちを落ち着ける助けにもなったと。今回のような体験は、どんな人に薦めたいとかありますか?

アオイヤマダ:みんな一度はやった方がいいと思います。書道をする機会って、学校を卒業するとほとんどなくなってしまうじゃないですか。そして、焦っていたり、頭の中がいろいろなことでいっぱいになっていたりする人にこそ、一度やってみてほしい。書くことに集中しているうちに、少し気持ちが落ち着く時間になるかもしれないから。

今の自分がダイレクトに出る、手書きの魅力

――アオイさんは普段、文字を手で書くことはありますか?

アオイヤマダ:自分のパフォーマンスの資料は、まず手で書きますね。あと、手紙を書くのもすごく好きで、文通相手に定期的に手紙を書いています。

――今も文通を続けているんですね。手紙のどんなところに惹かれるのでしょうか?

アオイヤマダ:手紙を書いている時間って、その人のことだけを考え続ける時間じゃないですか。私は、その時間がすごく好きなんです。逆に手紙をもらった時も、「この人は、手紙を書いている間、ずっと自分のことを考えてくれていたんだな」と感じられる。それにも惹かれています。

――メールやメッセージでやりとりするのとは、伝わるものも違うというか。

アオイヤマダ:手紙っておもしろくて、書いているそばから、自分の思っていることが紙に定着して、どんどん過去になっていくのが目に見えてわかるんです。自分で書く文字も、その瞬間ごとに変わっていきますよね。書き進めるうちに、さっき書いた文字が、もう少し前の自分になっていく。活字では見えにくい自分の変化を確認できることも、手で書く魅力だと思います。

――その瞬間の自分が、そのまま表れるというか。

アオイヤマダ:そうですね。自分の思っていることと直結していて、間にあるフィルターが少ないんだと思います。踊りもそれに近いですし、私はダイレクトに自分が出るものが好きなんでしょうね。だからこそ書道は、人間にできる、とてもミニマムな表現の一つだと思いました。身一つでやる踊りがいちばんミニマムだとしたら、書道もそれに近いというか。自分が映し出される鏡のようにも感じました。

――では、今日書いた「茄子」には、どんな自分が映っていたと思いますか?

アオイヤマダ:今日書いた「茄子」を見ると、どこかがうまく書けると、ほかのどこかのバランスが悪くなっていて。その感じが、自分自身を見ているようで愛おしいなと思ったんです。
以前の自分だったら、そういう部分を嫌だと感じていたかもしれない。でも今は、それも含めて自分なんだと思える。書道を通して今の自分の現在地を知ることができたし、そんな自分を愛おしいと思えたことも、一つの成長なのかもしれませんね。

プロフィール

アオイヤマダ

身体と記憶、食と人、音楽と心の繋がりを信じて現在は独自の感覚と日常を融合させ、楽曲制作やパフォーマンス作品に取り組む。
東京2020オリンピック閉会式、大阪・関西万博閉会式パフォーマンス。ダムタイプ「2020」、映画 『PERFECT DAYS』、『炎上』、『HER PRIVATE HELL』、MV サカナクション『いらない』などの出演。NHK『ドキュメント72時間』のナレーションなどに携わるなど、身体と声で活動を広げている。踊り語りユニット『アオイツキ』や『東京QQQ』でも活動中。写真集『EBIZAZEN』が発売された。

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