Interview

急がず、優しく、煌めいていく。アイナ・ジ・エンドが書道で見つけた「自分との向き合い方」

アイナ・ジ・エンド

歌、ダンス、演技と多彩な表現を続けるアイナ・ジ・エンドが、20年以上ぶりに墨を磨り、筆を手にした。「本当に私で合っていますか?」——そんな戸惑いを抱えて始まった体験は、書き重ねるうちに静寂の時間へと変わり、書くという行為を通して自分自身と向き合う時間が生まれていった。

2025年のテーマとして掲げた漢字「煌(きらめく)」をあらためて筆で書きながら気づいたこと、書くことと身体性の関係、そして日常の中に書くことを取り入れていきたいという想いまで。歌やダンスとは異なる、新たな「自分との向き合い方」を見つけた彼女が、その体験を率直に語る。

取材・執筆 :三宅正一、撮影:タケシタトモヒロ、編集:丸田武史

優しく生きること。2026年のアイナ・ジ・エンド

──はじめに、現在の活動の近況を聞かせてください。4月からは初のアジアツアーも始まりますよね。

アイナ・ジ・エンド:最近は1年かけて制作した新曲のMV撮影が終わったり、もうひとつの楽曲制作が一区切りを迎えて。かと思えばまた新しい制作が始まったりと、制作の話が尽きない日々ですね。アジアツアーは台北の追加公演が決まって、本当にありがたいなと思ってます。韓国やバンコクには初めて行くので、少しでも現地の言葉を話せたほうがいいかなと思って勉強してます(笑)。

――2025年は、アニメ『ダンダダン』第2期OPテーマ「革命道中」の世界的ヒットやNHK紅白歌合戦へのソロ初出場など、アーティストとしてのフェーズが大きく更新された1年だったと思います。2026年はどんなマインドで表現や制作に向き合っていきたいですか?

アイナ・ジ・エンド:私は忙しい時こそ、人にすごく優しくしたほうがいいなと思っていて。忙しいと、丁寧なコミュニケーションができていなかったりする。そういう瞬間が嫌で、めちゃくちゃ優しく生きて、それが回り回って表現につながったらいいなと思ってます。

──今日の習字体験は、まさにそんな「ゆっくり向き合う」時間だったのかもしれませんね。

アイナ・ジ・エンド:はい。だから、今日の体験もすごく勉強になりました。撮影前にレクチャーしてくださった 先生がゆっくり墨を磨るその姿を隣で見た時に、「こんなにゆっくり時間が流れていいんだ」って思ったんです。自分はどこかで生き急いでしまうところがあるので、2026年は急がず、人に優しくしていきたいです。

20年以上ぶりに向き合った「書く、ということ。」

──今回の「Relight the Write 書く、ということ。」プロジェクトのオファーを受けた時、率直にどんなことを思いましたか?

アイナ・ジ・エンド:「本当に私で合っていますか?」って思うくらい、正直不安でした。アイナ・ジ・エンドと書道という清らかな文化が、うまく化学反応を起こせるのかな?って。実は、20年以上ぶりに墨をするところから体験させていただいて、最初はすごく緊張していたんですけど、先生のお手本を見せていただいたらワクワクしてきて。いざ自分で字を書いてみると、決して上手とは言えないけれど気持ちが整ってくるってこういうことなのかな、と好奇心が湧いてきて。思っていたよりずっと触れやすい文化だと感じましたね。

──書くこと自体は、もともと身近な環境だったんでしょうか。

アイナ・ジ・エンド:私のお父さんはもともと芸大生で漆塗りを10年以上やっていて、その後カメラマンになった人で。おばあちゃんも油絵がすごく得意で。「書く」というものは幼少期から身の回りにあったはずなんですけど、「文字を書く」ということには正直、しっかり触れてこなかったと思います。学生時代の私にとって書くといえば、授業中に友だちと手紙を回していた時間くらいで(笑)。内容は本当に「お腹空いた」くらいのことなんですよ。でも授業中にこっそりやっていることだから、ゆっくり書くじゃないですか。あの時間に、字を可愛く書く練習をしていた気がして。それが私にとっての唯一の「書く練習」だったかもしれないです(笑)。

──実際に書いている最中、頭の中はどんな状態でしたか。

アイナ・ジ・エンド:脳の中でいろんなものが削ぎ取られていく感じでしたね。邪念を取っ払いたいという前のめりなエネルギーが最初はあって。でも途中から丁寧に書くことを心がけていたら、外の風の音も感じなくなって、頭の中も静かになっていったというか。最後の方は、先生に言われたことを頭に入れつつ、自分の中にある勢いや前のめりなエネルギーも一緒に乗せられて、少しマッチできた気がしました。短い時間だったけれど、その中で自分の移ろいをすごく表現できた気がします。「こんなに変わるんだ」みたいな。そういう感情で自分が書いた字を眺めていました。

――書道に限らず、普段自分と向き合うときはどんなことをしますか?

アイナ・ジ・エンド:音楽を聴くことが多いですね。人の声が入っていない、映画のサントラとか。あと、香りを意識することもあります。今日もリラックスしている瞬間に、墨の香りがすごく良くて。でもこれって、きっと緊張していると漂ってこないんですよ。リラックスしているから入ってきやすかったというか。今の自分にどれくらい余裕があるか、香りで分かる感じがしました。

――今日、実際に書いてみて、自分と向き合う感覚に変化はありましたか。

アイナ・ジ・エンド:実は今日の撮影を迎えるにあたって、書道をやっている美容師の友だちに「書道って何が大事なの?」って聞いたんです。そしたら、「大事なものがありすぎるから、ただ自分と向き合ったらいい」って言われて。その答えが見つからないまま撮影に臨んだんですけど、今日、少しだけその意味がわかった気がします。静寂で、誰からも話しかけられることもなく、本当に自分と向き合える時間。今までは、歌やダンスを通して自分と向き合ってきたんですけど、文字を書くことでも同じように向き合えるんだと気づきました。

字にも人格がある。書くという行為と身体性

――アイナさんの表現を見ていると、身体から滲み出るような熱量を感じます。歌詞を書く時は、手書きですか?

アイナ・ジ・エンド:歌詞は書いては消して、書いては消しての繰り返しなので、手書きだと間に合わないのとフリック入力に慣れているので、スマホの方が速くて。でも、タイピングだと味気ないなと感じる時はあって、そういう時は音として歌詞を捉えて、手書きで書いて歌を練習することもあります。それが歌い方に滲んでいるのかもしれない。あと、落ち込んでいる時は、手でなだらかに自分の落ち込みを書きますね。「今私はソファーにもたれかかっているけれど、まるで沼のようだ」みたいな(笑)。それは日記とは言えない日記みたいなもので、「いつかの歌詞の材料になるかも」って常に思っている自分がいます。

――手を動かすことが、思考の整理にもなっているのかもしれませんね。

アイナ・ジ・エンド:それでいうと、振り付けのフォーメーションはすべて手書きでノートに書くんです。身体の動きを整理する時は、手が必要なんでしょうね。あと、字にも人格があるなと思っていて。私の中には、80くらい人格がある感覚なんです。
歌っていても声色がいろいろあって──可愛い子ぶりたい時もあるし、シャウトしたい時もあるし、化け物みたいに歌いたい時もある(笑)。字も同じで、機械で判定したら筆跡は同じだって言われるかもしれないけど、自分の中ではいろんな人格が表れる気がします。

――ダンスは4歳から続けているとのことですが、ダンスで「ゾーンに入る」感覚と、字を書く時の集中力は通じるものがあると思いますか?

アイナ・ジ・エンド:あると思います。ただ、ダンスは呼吸をするようにやっているんですけど、習字には全然基礎がないので、今日はただ自分の感覚で書いたのと、先生の筆運びを一瞬でコピーするだけだったので。でも、きっと通じるものはあるはずなんですよ。字を書いてもゾーンに入れると思うんですけど、今の私はあまりにも知識がなかったので、実感はまだないですね。でも、きっと根底にあるものは同じなんだと思います。

「火に、白に、王」。アイナ・ジ・エンドと「煌」

――今回書かれた「煌(きらめく)」という字を選んだ理由を聞かせてください。

アイナ・ジ・エンド:2025年は「煌めいていく」ということを大事に生きていたんです。枯渇したものよりも、潤いのあるキラキラした成分を身にまとって頑張ろうって。そしたらいろんな革命が起きて、見たことのない景色をファンの方々と見ることができました。2026年はその煌めきをもっと芽吹かせていこうと思って。眠っていたものが花になって開くように、煌めいたものをいっぱい人にあげていこう。そういう気持ちで、あらためてこの字にしました。

――そんな「煌」を実際に筆で書いてみて、新たな発見もありましたか。

アイナ・ジ・エンド:「煌」という字を書きながら、「火に、白に、王という字で一文字ができてるんだ」って気づいて。自然の中でも圧倒的に力強い火と、どんな色もピュアに包み込む白、そして王という、百戦錬磨のような字(笑)。

――まさにその「煌」が、今のアイナさん自身とも重なる部分がありそうですね。

アイナ・ジ・エンド:今日、実際に筆で書いてみて、「煌」は今の自分にすごくしっくりくる字だなと思いました。最近は、縮こまらずに駆け出していく人にすごく美しさを感じたり、一生懸命やっている人に煌めきを感じたりするので。自分もそうなりたいし、周りを巻き込んで走っていきたい。その自由を大切にしたいと思っています。

字に宿るエネルギー。書くということの価値

――今日の体験を踏まえて、書くことの価値をどのように感じましたか?

アイナ・ジ・エンド:去年「革命道中」という曲をリリースして、ツアータイトルもそのまま「革命道中」にして、それこそツアービジュアルは書道家の方に毛筆で「革命道中」という字を書いていただいたんです。毎回、その字を見てからライブを始めるんですけど、すごく元気をもらえて。

――その字から、何かを受け取った感覚があったんですね。

アイナ・ジ・エンド:はい。字からエネルギーをもらえるんだって、人生で初めて知ったんです。書かれた字に何かを吸い取られることはなく、私は得ることしかないと思ったんです。書いた人のエネルギーがそこに宿っていて、それをいただける。だから、筆から生まれる言葉ってめちゃくちゃポジティブなものしか集まっていないんじゃないかって思いました。

――今日の体験を経て、これから字を書くこととの付き合い方は変わりそうですか?

アイナ・ジ・エンド:何でもない時にも、もっと字を書いていいんだって思いましたね。朝起きて丁寧に生きたいなと思った日に、そのマインドで字を書いてみる。逆に、お酒を飲んで「楽しいね!」ってなっている時の字はどんなんだろう?って、気になります(笑)。感情によって字の勢いも違うと思うから、いろんな時に書いてみたいです。お金があってもなくても、字は書けるし、どんな時でも書くことはできるから。

――「書いて残す」という行為にも、様々な意味が生まれそうですね。

アイナ・ジ・エンド:残すって大事だなと、あらためて思うんです。私は自分への遺書みたいなものを書くことがあって。これは全然ネガティブな話じゃなくて、「今自分が死んでも後悔しないか?」ということを確認するために書くんです。そういう気づきを得るために書く。そうやって手で書いた文字にはエネルギーがあると思うんですよね。

プロフィール

アイナ・ジ・エンド

2015年、楽器を持たないパンクバンド"BiSH"のメンバーとして始動。23年のBiSH解散後、ソロ活動を本格化。映画『キリエのうた』(岩井俊二監督)で映画初主演を務め、数々の賞を受賞するなど、表現者としての幅を広げる。25年には所属事務所をエイベックス・ミュージック・クリエイティヴへ移籍。TVアニメ『ダンダダン』第2期OPテーマ「革命道中」が国内外で大ヒットを記録し、NHK紅白歌合戦にソロ初出場。26年4月からはソウル・バンコク・台北を含む初のアジアツアー「AiNA THE END LIVE TOUR 2026 –PICNIC–」を開催。

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2015年、楽器を持たないパンクバンド"BiSH"のメンバーとして始動。23年のBiSH解散後、ソロ活動を本格化。映画『キリエのうた』(岩井俊二監督)で映画初主演を務め、数々の賞を受賞するなど、表現者としての幅を広げる。25年には所属事務所をエイベックス・ミュージック・クリエイティヴへ移籍。TVアニメ『ダンダダン』第2期OPテーマ「革命道中」が国内外で大ヒットを記録し、NHK紅白歌合戦にソロ初出場。26年4月からはソウル・バンコク・台北を含む初のアジアツアー「AiNA THE END LIVE TOUR 2026 –PICNIC–」を開催。

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初めての方も、再び筆をとりたい方も。
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